原因

犬の胆泥症とは、胆汁が濃縮して変質し泥状に変性したもの(胆泥)が胆嚢に貯留した状態をいいます。この胆泥がさらに変質して石状になったものを胆石といいますが、犬では胆石症の発生は比較的稀です。ちなみに人間の胆石症はコレステロールが結晶化したものが多いですが、犬の場合、ほとんどがカルシウム塩です。
 
内分泌の異常(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など)や細菌感染から併発した胆嚢炎が原因になって発症することが多く見られます。
 
似た病気として、非炎症性の胆嚢管閉塞に起因する「胆嚢粘液嚢腫」も注意が必要です。

症状

初期の状態では、特に大きな症状を示す事は少ないです。血液検査での胆管系の酵素上昇で疑われるケースが多く見られます。
 
進行して、胆嚢炎が悪化したり、肝障害が生じたり、あるいは胆石や胆泥が胆嚢から出て総胆管をふさいだりすると、元気、食欲低下、嘔吐が認められたり、さらに黄疸が現れる事もあります。
 
重症化すると、胆嚢が破裂し、腹腔内が汚染されて、臓器が傷み、腹膜炎を起こすこともあります。

治療

犬の場合、胆泥の貯留のみでは治療対象になりません。特に超音波検査で胆泥が流動的な貯留(可動性の胆泥)の場合は治療の必要は少ないです。
 
一方、超音波検査で胆泥が固まっている(非可動性)の場合は、将来、胆嚢粘液脳腫に進行するリスクがあるため治療が必要となる場合が多いです。
 
根本的な原因が、胆嚢炎の場合は、抗生物質や消炎剤による治療、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌異常が原因の場合は、ホルモン剤による治療が必要となります。
 
内科的治療に反応しない場合、あるいは胆泥、胆石などが物理的な閉塞を引き起こしている場合は外科的な処置が必要になります。

犬の胆泥症に使う内服薬

ウルソ(ウルソデオキシコール酸)

人工的に合成された、非毒性で親水性の高い胆汁酸です。
漢方薬の熊胆(ゆうたん、ユウタン)、熊の胆(くまのい))に含まれる有効成分です。
 
ウルソはいわゆる善玉の胆汁酸で、接種することによって本来の毒性の高い胆汁酸が薄められるので、胆汁の流れが改善され、胆嚢内の炎症性産物が排泄されやすくなります。
 
ウルソは、安全性が高く、副作用は極めてまれなお薬です。よって胆道閉塞以外の症例で、広く肝臓疾患に用いることが可能です。
 
一定期間飲ませることで、血液検査のALPやγGTPの低下が見られます。ただ飲み止めると上昇することも多くみられます。ウルソのみで胆泥が完全に消失する症例はすくないものの、データの改善が見られる症例であれば長期にわたって使用します。
 

スパカール(トレピブトン)

オッディー括約筋を緩めることで胆汁の排出を促す薬です。分類は利胆剤です。オッディー括約筋とは、十二指腸にあって胆管や膵管の出口を締める筋肉のことです。
 
ウルソが胆汁酸を薄めてるのに対して、スパカールは胆管の出口を広げて排出を促す薬です。これが利胆剤とよばれるゆえんです。
 
スパカールは副作用が少ない反面、血液検査のALPやγGTPなどにあまり改善が見られないこともあるので、超音波検査での胆泥の貯留やデータに改善が見られない場合は、使用を中止します。
 

エリスロマイシン

マクロライド系の抗生剤です。低用量で用いることで消化管の運動性を向上させることが知られています。
 
他の薬と同様に、副作用が少ない反面、血液検査のALPやγGTPなどにあまり改善が見られないこともあるので、超音波検査での胆泥の貯留やデータに改善が見られない場合は、使用を中止します。

予防

ビーフジャーキー、チーズなど、高カロリー・高脂肪のおやつは与える量に注意する必要があります。バランスの取れた食事を与える事や適度な運動をする事が重要です。
 
血液検査でわかる場合も多いので、定期的な健康診断で早期発見をする事も大切です。

関連疾患

甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症

好発犬種

シェトランドシープドック、アメリカンコッカスパニエル、ミニチュアシュナウザー、ビーグル、シーズー、チワワ、パピヨン