【原因】
食物アレルギーは、特定の食材に含まれるタンパク質や添加物(アレルゲン)に対して免疫系が過剰反応を起こし、皮膚や消化器症状を引き起こす疾患です。多くの場合、食事中の牛肉、鶏肉、小麦、乳製品、大豆、卵などに含まれるタンパク質が原因となります。特に「加水分解されていないタンパク質」がアレルゲンとなりやすく、長年同じ食材を摂取してきた個体で発症することも少なくありません。食物アレルギーは遺伝的要因や腸内環境、皮膚バリアの異常なども複雑に関与して発症します。食物不耐性(消化できない)とは異なり、少量の摂取でも症状が出るのが特徴で、成犬・成猫になってから急に発症するケースもあります。
【症状】
食物アレルギーの主な症状は、皮膚症状と消化器症状に大別されます。皮膚症状では、激しいかゆみ、脱毛、赤み、湿疹、耳の炎症(外耳炎)などが見られ、特に顔、耳、足先、肛門周囲などに集中しやすい傾向があります。かゆみにより自傷行為を繰り返すことで、皮膚がゴワゴワしたり色素沈着が起こることもあります。消化器症状としては、慢性的な下痢や軟便、嘔吐、食欲不振などが挙げられます。皮膚症状と消化器症状が同時に現れるケースも多く、症状が季節に関係なく一年を通して継続するのも特徴です。他の皮膚病(アトピーやノミアレルギー)と見分けがつきにくいため、詳細な診断が重要です。
1日の排便回数が3回以上あれば食物アレルギーを疑った方が良いと考えます。
【診断】
アレルギー検査(IgE検査、白血球反応検査)で診断する事がありますが、アレルギー検査は万能な検査ではありません。また、アレルギーが見つかった場合以下の交差反応に注意する事が必要です。
交差反応アレルゲン類 一覧
草 | ギョウギシバ | セントオーガスティングラス |
---|---|---|
スズメノチャヒキ属 | 大麦、 ライ麦 | |
セイバンモロコシ | コーン、 穀草、 サトウキビ | |
雑草 | オナモミ | メロン、 スイカ、 ラテックス、 セロリ、 ヒマワリ、バナナ |
タンポポ | ヒマワリ、 レタス | |
ギシギシ | ギシギシ属 | |
西洋オオバコ | オオバコ、 メロン | |
セイタカアワダチソウ | バッカリス、 ヒマワリ | |
ニワトコ | セロリ、 ヒマワリ、 メロン、 スイカ、 バナナ、 ラテックス | |
ブタクサ | ヒマワリ、 メロン、スイカ、 セロリ、 バナナ、 キュウリ、 ラテックス、 レタス、 タンポポ、トマト、セイタカアワダチソウ、リンゴ、ズッキーニ、 糖蜜、 カモミール茶葉 | |
ヨモギ | 人参、 セロリ、 ウイキョウ、 カバノキ、 リンゴ、ヒマワリの種、キウイ、 メロン、 コショウ、 パセリ、 スイカ、 ピーナッツ | |
樹木 | カバノキ(白樺) | リンゴ、 セロリ、 人参、 ジャガイモ、 トマト、 アーモンド、 クリノキ、 ブナ、 トネリコ、 キウイ、 杏、 ヘーゼルナッツ、 蕎麦、 蜂蜜、 パセリ、 コショウ、 プラム、 サクランボ、 プルーン、 ピーナッツ、ホウレンソウ |
カエデ | メープル | |
ニレ | ニレ属 | |
ハシバミ | クリノキ、ブナ、リンゴ、アーモンド | |
ビャクシン | スギ | |
スギ | トマト | |
オーク | クリノキ、 ブナ | |
オリーブ | ライラック、 サフラン | |
トウヒ(エゾ松を含む) | モミノキ、 松 | |
スズカケノヒ | プラタナス属 | |
オオカエデ | プラタナス属 | |
ハンノキ | アーモンド、 リンゴ、 セロリ、 サクランボ、ヘーゼルナッツ、 パセリ、 洋ナシ、桃 | |
食物 | 牛肉 | 牛乳、 牛上皮、 羊肉、 豚肉、 馬肉、 兎肉、 鶏肉 |
鶏肉 | 七面鳥、 ウズラ、 鶏卵、 ウズラの卵 | |
ミルク | チーズ、 乳漿、 山羊乳 | |
豆 | ピーナッツ、 インゲン豆 | |
コーン | サトウキビ、 セイバンモロコシ | |
七面鳥 | 鶏肉 | |
ソルガム | コーン、 サトウキビ、 セイバンモロコシ | |
オートミール | 蕎麦 | |
ポテト | ピーマン、なす、 フトモモ科の木(実) | |
マグロ | 鮭、オヒョウ | |
タラ | タラ科、 ウナギ、 サバ | |
人参 | セロリ、 ウイキョウ、 パセリ、 キュウリ、 スイカ、 リンゴ、 キウイ | |
エンドウ豆 | ピーナッツ、 大豆、 インゲン豆 | |
室内 | ゴキブリ | 甲殻類(エビ、カニ) |
食物アレルギー検査
アトピー検査では、血液検査によって血液中のIgE(免疫グロブリンE)値を定量的に調べる事が重要です。この免疫グロブリンは、IgGを初め様々な型が存在します。その一方でIgEは正常犬の場合、全体の中の0.001%程度しか存在していません。信頼できる検査機関で検査をする事が大変重要です。
一方ある物質に対して犬の血液にはIgE値が多いとしても、必ずしもアレルギーを起こすとは限りません。例えば血液検査上で卵黄のIgE抗体値が高くても、卵黄を食べたら、必ずアレルギーが出るとは限らず、逆に卵黄を除いてみても症状は必ずしもよくならない事があります。
実は食物アレルギーの場合、IgE値が高くならない別の経路で反応が起きている事が多く発生します。その場合除去食試験、皮内反応試験、リンパ球反応試験などで診断をする必要があります。
多くの場合、食物アレルギー単独で痒みが出る事例はあまり多くありません。アレルギー食をずっと食べさせていてもかゆみがおさまらないのはその理由です。
検査 | 料金 |
---|---|
アレルゲン特異的IgE検査 | 12,000円(税抜) |
Derf2検査 | 3,000円(税抜) |
【治療】
食物アレルギーの治療の基本は「アレルゲンとなる食材を排除する食事療法」です。診断を兼ねた「除去食試験」を行い、原因食材を特定します。この期間は通常8週間程度、加水分解タンパクや新奇タンパク(アレルギーを起こしたことのない食材)を使用した療法食のみに限定します。途中でおやつや他のフードを与えると診断が不明確になるため、飼い主の協力が不可欠です。原因が判明すれば、それを避けることで再発を防ぐことができます。皮膚症状が重い場合は、一時的にステロイドや抗ヒスタミン薬、オクラシチニブなどを併用することもありますが、薬だけで根本治療はできません。定期的な皮膚ケアや腸内環境の改善も有効とされます。
また当院では、経口免疫療法も行っています。
① 除去食療法
除去食と呼ばれる、アレルゲンの少ない食事を与えることで治療を行います。適切な食事を与えると症状が改善することが多くみられます。
当院では、小型犬を診察する機会が多いため、アミノペプチドフォーミュラ 小型犬用を主に用いります。
② 経口免疫療法
あえてアレルギーの含まれる食事を少量から少しずつ与えることで、免疫をつける知用方法です。人間の場合食材を選択できますが、犬猫の場合困難なことが多いため、除去食と組み合わせて行うことが多いです。
【予防】
食物アレルギーの予防は完全には難しいものの、発症リスクを減らす取り組みは可能です。まず、若齢期から特定の食材に偏らないバランスの取れた食事を与えることが重要です。同じタンパク質を長期にわたって与え続けると、免疫が感作されアレルギーを起こしやすくなる可能性があります。腸内環境を整えるため、プロバイオティクス(善玉菌)やプレバイオティクス(腸内細菌の栄養源)を含むフードの選択も有効です。低アレルギーのみをあたえる事が重要です。おやつや人間の食べているものを不用意に上げない事も大切です。また、皮膚バリアの保護や保湿によって、外部からのアレルゲンの侵入を防ぐことも大切です。アレルギー家系の個体では、アレルギー検査を行い事前にアレルギー反応を起こしやすいものを調べる事(IgE検査、白血球反応試験)も予防になります。フードの切り替えは慎重に行い、初めての食材に反応しないかを観察することが重要です。
【関連疾患】
食物アレルギーは他のアレルギー性疾患と併発することが多く、アトピー性皮膚炎やノミアレルギー性皮膚炎との鑑別が重要になります。また、皮膚のバリアが破綻することによって起こるマラセチア皮膚炎や膿皮症などの二次感染が併発することも少なくありません。慢性的な消化器症状が続くと、腸の炎症やたんぱく漏出性腸症などの消化器疾患へと進行する可能性もあります。さらに、長期的に原因が特定されずに症状が続くと、栄養失調、体重減少、慢性ストレスなど全身状態にも悪影響を及ぼします。複合的な管理と継続的な観察が求められる病気です。
【好発犬種・猫種】
食物アレルギーはあらゆる犬種・猫種に発症する可能性がありますが、遺伝的素因が関与するため特定の犬種での報告が多く見られます。犬では、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・シェパード、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、柴犬、シーズー、ボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・ダックスフンドなどでよく見られます。猫では、アビシニアン、デボンレックス、バーミーズ、スコティッシュフォールドなどで報告例がありますが、雑種猫にも発症することがあります。好発年齢は生後6か月〜6歳頃までが多く、成長期に急に皮膚や消化器の異常が出てきた場合には、早めに獣医師の診断を受けることが推奨されます。