原因

犬や猫の尿中に排出されるミネラル成分が結晶化し、さらには結石を作り排尿障害を引き起こす病気です。

尿石の成分によって、以下の2つに大分する事が出来ます

代表的な結石 ストルバイト
(リン酸アンモニウム・マグネシウム)
シュウ酸カルシウム
pH アルカリで結晶化
(ウレアーゼ産生菌が関与)
酸性で結石化
特徴 食事療法で溶ける結石 食事療法で溶けない結石
レントゲン写真 薄く映る 濃く映る
写真 レントゲン写真1 レントゲン写真2

人間の尿石症では、シュウ酸カルシウム結石(リン酸カルシウムとの混合も含む)が全体の約90%で、リン酸マグネシウムアンモニウムは約5%です。

一方、犬や猫の場合、臨床現場では、ストルバイトが多くみられます。ただ近年は、治療の難しいシュウ酸カルシウム結石の割合が増えており、問題になっています。

例えばロイヤルカナン社の2012年までの調査によれば、2000例中、ストルバイトが44.7%、シュウ酸カルシウム結石が43.7%と言ったデータもあります。

症状

多くの場合、血尿が出たり、トイレに何度も行っても尿が出切らない様子を示す場合が多く見られます。そのまま放置をした場合、尿閉(尿が出ない)を起こしたり、食欲不振、嘔吐、虚脱などを示す場合があります。

特に尿閉を起こした場合、急性腎不全を起こす危険があります。

診断および治療

診断

尿検査が必要です。また触診で膀胱に緊張が無いか確認します。膀胱が拡張している場合は排尿障害があることを疑うので、カテーテルで尿道を広げてあげる必要があります。

さらに結石を疑う場合は、超音波検査やレントゲン検査で膀胱および腎臓に結石が無いか確認します。また食欲低下や虚脱をしている場合は血液検査を行い腎不全を併発していないか確認します。

治療

ストルバイトとシュウ酸カルシウム結石とでは、同じ結石症であっても治療方法が全くと言って良いほど異なります。

また一方の結石の管理をしようとすると、もう片方の結石のリスクが高くなることがあるので、両方の結石が出来る場合は、シュウ酸カルシウム結石が治療の優先となります。

① ストルバイトの場合

ストルバイト結石の場合は、尿中のpHを変えることで結石を溶かす事が出来るため、療法食を主体に内科的な治療で完治させる事が出来ます。また主に大腸菌による細菌性膀胱炎を併発している事が多くみられるため、抗生剤の治療も行います。

血尿で来院する場合は、抗生剤、止血剤、pH調整剤などで治療をしますが、尿閉(尿が出ない)の場合は、急性の腎不全を併発している場合が多いので、尿道カテーテルを通して、入院治療をする場合が多いです。

ストルバイト結石は、低グレードのペットフード、おやつや人間の食べるものを与えすぎると再発することがありますが、療法食のみを続ければかなりの確率でコントロール可能です。

ただし、療法食のみを与え続けた場合、副作用の影響も報告されています。獣医師の判断の中で給仕してください。

② シュウ酸カルシウム結石の場合

近年、問題になっているシュウ酸カルシウム結石など溶けないタイプの結石の場合、最終的には外科的な手術が必要です。しかし外科手術をして結石を除去し、療法食だけ与えた場合でも再発するケースが非常に多く、文献によれば、療法食のみを与えた場合でも1年以内の再発率36%以上、3年以内の再発率が60%との報告もあります。

その理由は、シュウ酸カルシウム結石の形成メカニズムが十分に解っていない事にあり、シュウ酸カルシウム結石に有効な療法食が存在していないからです。

シュウ酸カルシウム結石は、文字通りシュウ酸とカルシウムが共有結合(イオン結合では無い)して形成されるため、尿中に排出されるシュウ酸やカルシウムの濃度を下げれば良いことです。

動物性タンパク質が代謝されシュウ酸になる事、また人間の尿石のデータでは、尿中のクエン酸やマグネシウム濃度が結石に影響を及ぼす事が分かっているため、多くのシュウ酸カルシム用の療法食は、低タンパク質、低カルシウムです。

ただ結石生成のメカニズムが、また十分に解明されていないため、療法食だから大丈夫と言った事ではありません。特にカルシウムの代謝は複雑な機序でコントロールされているため、単純に低カルシウムの食事を与えた場合、尿中のシュウ酸濃度が上がり、逆にシュウ酸カルシウム結石が増えてしまった症例もあります。

一方、別のシュウ酸カルシウム結石の症例では、全く別の療法食である、低脂肪の療法食やアミノ酸療法食で良好にコントロール出来ました。

当院では様々なフードから検査データをもとに最適なフードをご提案させていただきます。さらに療法食だけでコントロール出来ない場合は、内服薬を併用したり定期的に膀胱洗浄を行ったりする必要があります。

予防

尿石症の予防方法

尿石症になる動物のほとんどがおやつ類の与えすぎ、高級缶詰やちゃおちゅーるなどのおやつ中心の不摂生な食生活が見られます。こうしたものを控える事がまず重要です。

またストルバイトは大きな問題になることは少ないですが、シュウ酸カルシウム結石は再発防止が難しいため、普段の食生活の管理が極めて重要です。

さらに肥満は尿石症のリスクを増加させます。体重は適正に保つように食事量の調整が必要です。適度な運動をさせる事は重要です。

飲水量を増やす事やフードに水分を足して尿を薄くする事も極めて重要です。ドライフードの場合、食事量のグラム数の倍の水の量を与えることが推奨されています。例えばフードが50gであれば、水の量は100ml足す事が必要になります。

関連疾患

慢性腎不全

好発犬種

シーズー

よくあるご質問

療法食をずっと食べ続けなくてはならないんですか?
一緒に、一般食に戻す努力をしましょう。

塩分制限を行います。

療法食は万能ではありません。特に尿石症用のフードは塩分含有が比較的高い反面、高齢になると腎臓、心臓病が増えてきます。よって逆に塩分制限をしないといけません。いかに具体的な有害事例をあげます。

療法食の有害事例

【事例1】犬(ヨークシャーテリア) ♂(去勢) 15歳 体重 2kg 福岡県 尿石再発防止用の療法食を 1年10ヶ月給与。腎不全の所見が認められ、BUN80mg/dl と高値を示したため、コバルジンの投与を開始。腎臓への負担軽減を目的に、タンパク質の摂 取量を制限するため、尿石再発防止用の療法食の食事量を半量に減らし、不足するエネルギー量をおかゆ(米)で補充し、1週間の経過観察。腎機能の改善傾向が認められたため (BUN62.6mg/dl)、コバルジンの投与を継続し、食事を慢性腎不全管理用の療法食に切り替 えたところ、2週間後に、さらに腎機能の改善が認められた(BUN54.2mg/dl)。

【事例2】猫(シャム) ♀(避妊) 6歳 体重 4.3kg 福岡県 初診時ストルバイトによる血尿のため、ストルバイト尿石溶解時用の療法食の給与を指導。来院が途絶え、その間、同じフードを通販で購入し給与。3年後に、血尿のため再来 院し、シュウ酸カルシウム結石と診断。ストルバイト尿石溶解時用の療法食の長期給与が、 逆にシュウ酸カルシウム結石の形成を助長したことが推察される

療法食の健康への影響に関する事例(日本獣医師会調査(2012)より抜粋)